―異色の取り合わせの企画ですが、始まった経緯はどういうことだったんですか?

- 脳科学のことは以前から興味があって、時々調べたりしていたんですね。それで、今回伊藤さんからお話をもらって、ひとつ、それをしっかりとやってみようかと。脳科学を中心にした芝居というよりは、そういうものに着想を得て、物語のある家族劇を少人数でこってりとやってみたいと思った。野村さんとは、僕が芸術監督をしているアトリエ春風舎の企画のことで1,2度、相談をしたことがあったくらいで、今まで一緒に作品を作ったことはなかったんですけど、こういう機会もなかなかあるもんじゃないし、面白いじゃないかと。

- ちょうど同時期に、谷くんと伊藤さんと個別に会っていたんですね。谷くんと脳科学とか認知科学の話で盛り上がったあとに、別件で伊藤さんとお会いしたときに「谷くんと科学に着想を得た作品をやってみたい」と言っていて、「谷くんならいいんじゃないか」とか話していたら、しばらくして、この作品に参加しないかと誘っていただいたんです。以前、谷くんがブログで脳科学について興味深いことを書いて、それに対して僕からTwitterでやりとりしたりもしていたので、これは一緒にやることもできるかなと。

- 僕は、谷賢一という才能とは一度じっくりと仕事をしてみたいと思っていたんだよね。それに、野村くんとはお互い制作者として会う機会が多かったんだけれども、一方で「ドラマトゥルク」という人が、現場でどういう働きをしているんだろう?というのも、間近で見てみたいという気持ちがあって。それで、2人と話しているうちに、自然と、「脳科学」「谷×野村」みたいなことが形になっていったかな。それで3人で打ち合わせを始めた。

- 夏くらいからですね。それから、脳のことをいろいろ調べて行って。いろいろ面白いネタはあったんですけど、結局、情動と記憶の機能に役割を果たすとされているアミグダラ(扁桃体)を損傷した症例を選びました。アミグダラを損傷すると、恐怖の記憶がなくなってしまう、というのと、そういう実験をすると、性的な行動を隠さなくなってしまう、というのがあって。恐怖の感情って、動物の生存にとってたぶんすごく重要なことで。戦場で死んでしまうのも、恐怖を忘れた兵士だっていわれるそうですし。で、そういうちょっと逸脱した状況での人間関係の歪みというか、暴かれてしまうものを物語にできれば、と思っています。

- 僕は、演劇を始めた後、「演劇みたいなことって実際どのくらい科学でわかってるんだろう?」と思って、大学で知覚の心理学のコースを選んだりもしていて。そのとき感じたのは「全然遠い」ということと、「科学的にわかっていないことのほうが膨大」ということ。でも、面白いなと思ったのは、脳損傷の事例なんかでも、いわゆる「健全」な人にとっては、脳損傷の人は「変」なんだけど、当人にとっては自然…というか、それで世界が整って成立してるらしいってことなんですね。つまり、脳に損傷があっても、生きていけるんだけど、ただ「当たり前」のことが周りの「健全な」人とはズレてしまう。この摩擦のような部分が物語になればいいなと。

- 「ドラマトゥルク」というのが聞きなれない役職だと思うので、簡単に説明してもらえる?

- ひとことで言うと「演出家と一緒に作品を考える役割」「あいだをつなぐ役割」をもったスタッフですね。創作過程で、演出家・スタッフ・俳優が自分の仕事に没頭していると、当初持っていたはずのコンセプトを忘れて迷子になったり、全体で観たときにかえってお客さんに伝わらなくなっていたりします。そういうときに、ドラマトゥルクは、傍らに居て、観客目線で相談に乗ったり、創り手の仲間として「こうやってみたら?」と提案したりする。あと、チームのメンバーが孤立しないように、コミュニケーションを高めて、繋いで、共同作業のポテンシャルを上げる。ドイツの劇場では一般的な役職で、日本でも最近ちょくちょくそういう人を見かけるようになってきました。

- あと今回は、ドラマトゥルクを置くのに加えて、創作の過程でもいくつか新しいトライをしてみたいと思っていて。ひとつは事前の「トーク&リーディング公演」、もうひとつは、「公開稽古」。開かれた創作過程というか、本番だけをどん!と見せるんじゃなくて、創っていく過程での反応も取り入れながら、探っていけたらいいんじゃないかな。

- そうですね。リーディングについては、ともかく、自分がそこまでに台本を上げる、という〆切をつくる(笑)ということと、まだそれほど稽古をしていない状態で俳優が読んだものを、お客さんがどう受け取るのかに興味がありますね。本番とはまた違った新鮮さみたいなものが、台本と俳優の関係にもあると思うので。あと、公開稽古については、僕、稽古場を誰かが見学に来ていることとかは全然気にならないほうなので。僕らは黙々と稽古を進めるけど、その過程に立ち会ってもらえればと思います。


